川本三郎「銀幕の東京」

昭和20〜30年代の失われた東京の風景が「映画」の中で生きている。

銀幕の東京―映画でよみがえる昭和 (中公新書)
銀幕の東京―映画でよみがえる昭和 (中公新書)川本 三郎

中央公論新社 1999-05
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star失われた東京を求めて

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東京の町並は、関東大震災や大空襲を経て高度成長期に至り、かつての面影を殆ど留めないまでに変貌してしまった。今は失われた東京には、都電が縦横に走り、堀や川、それに架かる橋をめぐって人々が往来した。未舗装の道路、狭い路地、煙突、広告塔。消えたものは枚挙にいとまがない。本書は、黄金時代の日本映画に記録されていた東京の風景を集め、昭和二、三十年代の細部を再現しようとした、懐かしの東京時間旅行の試みである。

この10年余り「昭和」を再現するテーマパークや映画、書籍などが次々につくられ人気だ。個人的には表面をなぞるだけの薄っぺらさに少し胡散臭さを感じてはいるが・・・。本書もそんな「昭和ノスタルジー・ブーム」の一冊かもしれない。だが、著者の映画、町、風物への愛と情熱が文章から滲み出し、それらとは一線を画すものとなっている。


著者は、あとがきで「昭和二、三十年代の東京が消えていく。忘れられていく。江戸時代や明治時代のことは学問の対象にもなるし、歴史として大事に扱われる。しかし、昭和二、三十年代という、ついこのあいだのことは、現在から近いだけにかえって無視されやすい。近過去のことを語ると、すぐうしろむきの感傷、単なるノスタルジーとし批評される。学問の対象となることも少ない。そのために、たとえば、かつてあれほど親しまれた銀座の森永の広告塔のことや、西洋の古城のような形をした映画館として人気のあった銀座全線座のことが忘れられていく。風景が消えるだけでなく、都市の記憶まで消えていく。東京は二重の意味で失われた都市になっていく。そういった忘れられていく昭和ニ、三十年代の東京の細部をとどめておきたい。子どものころの東京の地図を作りたい。そんな気持ちから本書は生まれた」と書く。


そのためのいい資料となるのが映画なのだ。昭和20年代から30年代は映画の黄金時代、それらの多くで「東京」が舞台になり、失われた風景も鮮やかに記録されている。
そんな風景を、小津安二郎成瀬巳喜男川島雄三山田洋次などの名作(ビデオでも簡単に見られる)や、歴史に埋もれた作品の中から見つけ出し、失われた東京の「あの日」「あの場所」を次々と再生していく。


ページを開けば、いまはもうない風景が目の前に広がる。